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村山由佳


>>> おいしいコーヒーの入れ方(シリーズもの :1−4) ★★★★☆

父親の転勤により、いとこ姉弟と同居することになった勝利。久しぶりに会う5歳年上のかれんは、見違えるほど美しくなっていた。
やがて二人は恋におちる。しかし勝利は学生で、かれんは社会人。勝利が自立するまで、この恋は内緒。不器用ながらもそっと育まれる、二人の秘密の恋の行方は……。

等身大のラブ・ストーリー。村山由佳にはめずらしい、やや少女漫画風味の小説。さらっと読めます。
少しずつ、少しずつ発展していく勝利とかれんの恋模様が、もどかしくも微笑ましい。ゆっくりと展開する物語を通して二人が成長する(二人の関係が昇華する)様子が伺え、恋愛のありかたについて考えさせられます。……とはいっても、「恋愛とはなにか」という高尚なレベルではなくて、もっとずっと身近に感じる類のものですけれど。「二人にとって最良の関係のカタチとは?」「理想的な関係になるためには、なにをしたらいいの?」――誰しも一度は考えたことがあるんじゃないでしょうか。
勝利とかれんの二人だけではなく、彼らを取り巻く人々も皆、負けず劣らず個性的。単なる恋愛物語というよりも、ヒトとヒトとの繋がりを描く物語でもあると思います。

とりあえず、先の展開に期待。
とにかく、非常にゆるやかに進行する物語なので、長い目で見て取り掛からないといらいらしてしまうかもしれません。ちょっとした息抜きにどうぞ。
今のところのお気に入りは3作目『彼女の朝』と、4作目『雪の降る音』。この辺りから、二人の恋が「自分の想いをぶつける」カタチから「相手を思いやる」カタチへと変わっていった気がします。



>>> 天使の卵 ★★★★☆

予備校生の一本槍歩太は、電車で出逢った美しい精神科医・五堂春妃に一目ぼれをしてしまう。しかし彼女は歩太のガールフレンド・夏姫の姉だった。片やガールフレンド、片や妹である夏姫に対して罪悪感を抱きつつも、二人の気持ちはどんどん加速してゆく……。しかし二人の幸せは、長くは続かなかった――。

初めて手にした村山由佳作品。大分前に読んだ本ですが、続編『天使の梯子』の発売を機に再読。
良くも悪くも「正統派」かつ「古風」な恋愛小説。これといって斬新な要素が見当たらないため、一歩間違えれば「陳腐」「ありきたり」「凡庸」といったことばで片づけられてしまう可能性もある。透きとおった文体、繊細で豊かな表現力により、内容が昇華されているような印象を受けました。
はじめて読んだ当時は共感できなかったラストも、今では受け入れることができます。ヒトの強さや弱さ、(ヒトの命の)儚さ、そして運命の残酷さが丁寧に描かれた小説だと思います。哀しみの中にも希望を指し示す作風は、当初から健在。

オーソドックスであるからこそ、心に響く物語がある。『天使の卵』は、まさにそんな物語。
村山由佳の作品には激情を秘めたものが多いですが、『天使の卵』は穏やかな雰囲気で物語が展開されていきます。「純愛」と呼ぶにふさわしい小説。



>>> 天使の梯子 ★★★★☆

『天使の卵』から10年。古幡慎一は、5年ぶりに再会した憧れの恩師・斎藤夏姫と恋におちた。幸せである反面、彼は夏姫の恋人としての自信をなかなか持てないでいた。やがて、夏姫の周りをひとりの男の影がちらつきはじめる――。
『天使の卵』が発売されてから、ちょうど10年の節目に出版された本。作中の時間も10年経っています。主人公は一新、ヒロインは春妃の妹で、歩太のかつての彼女だった夏姫。

『卵』と『梯子』の鍵となるのは、取り返しのつかない一言。ふとしたはずみで口をついて出てしまった、言うべきではなかったことば。謝ろうにも、謝るべき対象はもういない……。
自分自身のことばに呪われながら、想い出に「後悔」という名のふたを被せる二人。凍りついた時間は、慎一と歩太が接触したことにより動きはじめる。

歩太と夏姫の「その後」が明かされる一冊。まったく新しい主人公を立てることにより、前作を読んでいないひとでも十分に楽しめる内容となっています。
『卵』のラストを読み終えたあと、歩太の「それから」が気になって仕方がなかったわたしにとって、『梯子』は願ってもない続編。『梯子』を通して、『卵』の魅力を再確認することもできました。10年のブランクがあるとはいえ、前作の雰囲気を引き継いでいるので、世界観が壊れる心配もありません。歩太の、そして夏姫の想いが行き着く先を知りたいひとには、迷わずオススメ。

一番心に残ったのは、歩太が春妃への想いを語るシーン。彼女はずっとそばにいてくれたのに、自分は哀しみのあまり気づいてやることができなかった、ということばは、悲嘆を経験したひとならば誰もが納得するのではないでしょうか。ひとの心をリアルに捉えた一言だと思います。



>>> 星々の船 ★★★★☆





>>> 野生の風 ★★★★★

色に魅せられ、染織家となった多岐川飛鳥。野生動物のいのちを取り続けるカメラマン・藤代一馬。ベルリンの壁崩壊の夜に、二人は出逢った。二人はアフリカの大地で運命的な再会を果たし、愛を育む。しかし、出逢うべくして出逢った二人を待っていたものは、慟哭の結末だった――。

「色」が、鮮やかに浮かぶ。いのちの息吹が、感じられる。目の前に広がるのは、遥かなるサバンナ。その香り。その風。
生きている、と思った。この小説の文章は、生きている。生き生きとしている。恋愛のみに留まらず、いのちについても考えさせられる物語だった。
文字通り、慟哭の結末でした。冒頭部から結末をほのめかす構造になっていますが、それでも希望にすがりつかずにはいられなかった。恋愛小説の視点から見れば、この衝撃のラストはあまりにも不条理に思う。でも、恋愛小説である一方で、これはいのちの物語でもある。めぐるいのちの、環の、物語。
ヒトはあまりにも不器用で、必要以上にややこしい生きかたをする。何度も迷って、時には過ちを犯して、傷つけて、傷ついて、大切ななにかを諦めなくてはならなくて……それでも、ヒトは生きていく。何度も何度も転んでは立ち上がって、再び歩き出す。

運命と呼ぶには、あまりにも残酷で哀しい。
飛鳥のかつての恋。一馬の犯した過ち。二人の選んだ答え。それは彼らの愛に、幸せな結末をもたらしはしなかったけれど。それでもいのちは続いていく。いのちは、めぐる。

切なくとも、やるせなくとも、一抹の希望を確かに感じ取った一冊でした。村山作品の中でも1、2を争うくらい好き。



>>> 夜明けまで1マイル somebody loves you ★★★★★

既婚の大学講師マリコとの道ならぬ恋に悩む主人公・涯。恋をしては泣きを見る恋愛下手で、自分に対してコンプレックスを抱いている幼なじみ「うさぎ」。彼らの恋愛と葛藤を描く、甘く切ない青春物語。

本作より少し前に江國香織の『東京タワー』を読んだせいか、当初、不倫の恋をしている両作品の主人公が重なって見えました。雰囲気が、すごく似ているんですよ。どちらも恋にのめり込み、相手を失うことを恐れている。恋愛シーンはとても綺麗で、後ろめたさをまったく感じさせないほど。相手の情報が最小限しか伝わってこないのも、両主人公の置かれた状況を物語っています。

読後感が非常に爽やかな作品でした。まるで曇り空が、晴天に変わったような。
「恋愛物語」、というよりは「青春物語」という言葉が当てはまるであろう、本作。恋愛そのものがメインテーマとして扱われているのではなく、登場人物の成長過程に恋愛が絡んでくる……といった感じ。だからか、「不倫」というような要素があるにも関わらず、ドロドロとした印象は見受けられない。大きな喪失感もない。あるのはひたむきなエネルギーと情熱、そして再生。なによりも、涯と「うさぎ」の初々しく、微笑ましいやりとりに大分救われたような気がします。

「希望」が約束される小説。特にラスト数ページは秀逸だと思いました。



>>> きみのためにできること Peace of Mind ★★★★★

高瀬俊太郎は、音響効果の世界におけるプロフェッショナルであるキジマ・タカフミに憧れて音響技術の道へと進んだ。今はまだ駆け出しの音声技師だが、聴くものの心を強く揺さぶるような「すごい音」を創り上げるのが夢。
そんな彼を支える、幼なじみの恋人・ピノコ。俊太郎の仕事上、なかなか会うことがままならない二人は、メールを通じてお互いの気持ちを確認し合っている。そんな二人の穏やかな関係は、俊太郎が女優・鏡耀子と出逢ったことによって少しずつ変わっていく……。

ピノコと鏡耀子、二人の女性の間で揺れる俊太郎。その心理が細やかに描かれている作品。
注目すべきは、恋人であるピノコが「メール」というツールを介してしか本編に関わってこないということ。対して、鏡耀子は「生身」として俊太郎と直接コンタクトを取ることができる。その結果、俊太郎と鏡耀子の仲はどんどん親密なものになってゆく。どんなに便利であっても、メールは直接的なコミュニケーションには敵わない。実際、メールを通じて伝わってくるピノコの印象よりも、鏡耀子が与えるそれのほうがずっと強烈。俊太郎の心情と連動して、読み手の心もピノコと鏡耀子の間をゆらゆらと揺れる……。まるで自分のことのようにどきどきしながらページを進めていました。
『メールは、確かに気持ちを伝えるのには向いていても、お互いを抱きしめることまではできやしない』――恋愛の難しさを語ると同時に、メールという名の文明の利器に依存する現代社会へのアンチテーゼであるように思う。

メインストーリーを彩る「音響の世界」というテーマも、とても新鮮だった。わたしはその筋の知識はカケラも持っていないので、些細な事柄でもすごく興味深かった。



>>> BAD KIDS ★★★★.☆

20歳年上のカメラマンとの関係に傷つく都。同性の親友に恋心を抱き、苦悩する隆之。ふとしたきっかけで出逢った二人は、誰にも言えない想いを共有するようになる。共に悩み、互いを労わりあう二人。同性愛、プラトニック・ラブ、肉体関係、そしてアイデンティティ……高校生の視点から描かれる、愛と性。

重厚で、一歩間違えればタブーとされるテーマが、さっぱりとみずみずしく描かれている。物語自体もさらっと読めるので、人によっては物足りないと思うかもしれません。都や隆之たちと年齢が近い方、……愛や、性や、自己に関する問題に直面している方のほうが、より共感を抱けるのではないかと思います。
『男と女でなきゃ間違ってるなんて、いったい誰が決めたの?』――思い悩む隆之に対して言い放つ都。男であるとか、女であるとかは関係ない。人を好きになるのに、理由などいらない――ひたむきな彼らを見て、ふと考えました。今、わたしたちの思考は、どれだけ多くの「暗黙のルール」によって染められているんだろう?単なる愛と性の問題だけではなく、それを通して社会の規範や道徳観念も問われる作品であるように感じました。
一見、とてもシンプルそうで、その実とても奥深い。切り口をほんの少し変えるだけで、何通りにでも楽しめる良作。

この作品の姉妹作品として『海を抱く BAD KIDS 』という小説があります。単独でももちろん楽しめますが、『BAD KIDS』→『海を抱く』の順番で読むことをオススメします。『BAD KIDS』の物語を別の視点から垣間見ることができるので、面白さが倍増すること間違いなし。



>>> 海を抱く BAD KIDS ★★★★★

サーフィンに情熱をかける山本光秀は、「軽くて、悩み一つないお気楽な男」という風評のある高校生。一方、藤沢恵理は真面目で成績優秀な副生徒会長。ほとんど接点を持たないように見える二人は、ある出来事をきっかけに身体を重ねるようになる――。

『BAD KIDS』のアナザーストーリー。やっと再読が叶いました。『BAD KIDS』でもちらりと登場した、隆之の友人・光秀と、都の友人・恵理の物語です。村山作品の中でも、特に好きなもののひとつ。

父親に対する反発、生と死のはざまの葛藤、女性の性欲、友情。『BAD KIDS』よりも更に濃密なテーマが扱われています。生と性の描写がとにかくリアル。
光秀と恵理の関係は身体の繋がりを基盤として発展していくので、性的な描写もそれなりに多い。にも関わらず、いやらしさを感じさせないのはさすが。恋ではないかもしれない、愛でもないかもしれない。そこにあるのは、真っ直ぐにぶつかり合う裸の魂。
光秀の、余命わずかな父のエピソードでは、生と死の意味が問われる。「生きている」とはなにか。延命措置とは、尊厳死とは、なにか。客観的にぼんやりと考えたことはあっても、いざ、自分に選択権が委ねられたとしたら、どうするのか。父を前にして思い悩む光秀の姿は、本当に生々しい。

普段、自分が目を背けている事柄を、目の前に突きつけられたような気がします。でも、いやな気分ではなかった。それはまるで、「考えること」を、優しく教えられたときみたい。
終盤間近の恵理と都のやり取りと、光秀と恵理の会話が好きです。都関連のエピソードは、『BAD KIDS』を読んだ上で読むとより味わい深くなると思います。音楽室で恵理に対して「ごめんね」と言った都。彼女のことばに託された想いを知ったのは、『BAD KIDS』を読んでから今作を再読したときでした。

感激したのは、一度目はさっぱりわからなかった都の弾いているピアノ曲の正体を知ったとき。『海を抱く』→『BAD KIDS』→『海を抱く』という読みかたも面白いのではないでしょうか?



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