子猫の朝


目覚めたとき、瞳に真っ先に映るのは、敦盛さんの寝顔。
愛しいひとの腕の中で、朝を迎える。これほどすてきなことはないと、思う。

ああ、また新しい一日がはじまる。そんなふうに、幸せをかみしめることができるから。

もう、日が高いのかな。障子戸越しに差し込む光が、寝所を明るく染めている。
起きよう、と思う。敦盛さんを起こさなくちゃ、とも思う。でも、このぬくもりがあまりにも心地よくて、なかなか離れがたい。

いつもなら、名残惜しい気持ちを振り切って起床して、隣で寝ている敦盛さんの身体をゆさゆさ、揺さぶっちゃうところだけれど。今日は、特別。

5月28日。敦盛さんの、誕生日。

今日だけは、敦盛さんの目が覚めるまで、この腕の中で待っていたい。敦盛さんにとっての新しい一年を、一緒に迎え入れたい。わたしたちが出逢ってから重ねる、最初の一年。

朔曰く、京には生まれた日を祝う習慣は特にないらしい。
敦盛さんも恐らく、誕生日を「祝うべきもの」として認識していないと思う。ささやかなお祝いでも、きっと、眼をまあるくしてびっくりする。そう思うと、なんだか楽しかった。

プレゼントも、ちゃんと用意した。
なににしようかぎりぎりまで迷って、迷って、着物を縫うことに決めた。これは、景時さんのアドバイス。着物の作りかたを教えてくれたのは朔。初めての着物作りに途惑っていたところを、たくさん助けてもらった。本当に、二人には感謝。
一番大変だったのは、敦盛さんに見つからないよう、こっそり仕上げなくちゃいけなかったことかなあ。出かけている間にちょっとずつ作業を進めていたんだけれど、一度だけ、早めに帰ってきちゃったときは焦ったっけ。大慌てで作りかけの着物を背後に隠して、敦盛さんに見つからないだろうかとヒヤヒヤしてたな。

そんな、いろんな思い出がいっぱい詰まった着物。色は、藍を選んだ。落ち着いたインディゴ・ブルー。敦盛さんの眼の色より、ほんの少し明るい。
プレゼントを手渡したとき、敦盛さんはどんな顔をするのかな。……着て、くれるかな。喜んでくれると、いいな。想像するだけでわくわくする。不思議。まるで、わたしがプレゼントを受け取る側みたい。

敦盛さんが起きたら、どんな話をしよう。なにからはじめよう。

ぼんやりといろんなことを考えているうちに、ゆるりと、わたしを包む腕に力がこもった。目線を上げると、優しい笑みを含んだ紫紺の瞳にぶつかる。敦盛さん。じっと見つめると、ちょっと恥ずかしそうに眼を逸らす。このしぐさが、たまらなく好き。

「おはよう、神子」
「おはよう、敦盛さん」

お誕生日おめでとう、と口を開くより先に、敦盛さんが額に唇を寄せる。続いてまぶたに、首筋に。柔らかくわたしの肩に顔をうずめる様は、まるで子猫みたい。寝起きの敦盛さんは、少し甘えたさんだ。

「……あたたかいな、神子は」

歌うように。秘密の呪文を唱えるかのように。そのことばを合図に、ふっと力が抜けた。このひとが愛しい、そんな気持ちで心が満たされる。

「ずっと、こうしていたい」
「……敦盛さんったら」

いつも、そう。敦盛さんのことばひとつで、動作ひとつでこんなにも幸せになれる。腕の中にすっぽりと納まっているだけで、すべてのものから護られているような気がする。
敦盛さんの胸に、額をくっつけて目を閉じる。ずっと、こうしていたい。わたしも、そう思う。朝も、昼も夜も、ずっと。磁石みたいに、ぴったりと。

「あなたが好きだ、神子」

ああ、なんだか。これじゃあまるで、わたしが敦盛さんから誕生日プレゼントをもらっているみたい。
本当に、いつもそうなの。わたしばっかり、嬉しい。

「敦盛さん、ずるい」
「え?」

なにを言っているのかわからない、と言わんばかりに、きょとんとする敦盛さん。

「だって、わたしが言いたかったこと全部、先に言っちゃうんだもの」

ねえ、譲くん。譲くんは急がば回れ、ってよく言っていたけれど。敦盛さんを前にすると、たまには近道することも必要かもしれないって、このごろ思うんだ。電光石火、先手必勝。動かなくちゃいけないときだって、ある。

そっと敦盛さんの頬を両手で挟んで、桜色の唇にキスを落とす。

「……神子」
「敦盛さん、今日がなんの日か知っていますか?」

不思議そうにわたしを見る敦盛さんに、笑いかける。

「今日は、ね――」

わたしたちが出逢ってから重ねた、最初の一年。ここからはじまる、新しい物語。

ねえ、あなたに言いたいことが、たくさんあるの。ことばでは言い尽くせないくらい、たくさん。
ゆっくり、話そう。ひとつずつ、伝えよう。この一日が終わるまで、ずっと語り続けよう。あなたが生まれた、大切なこの日に。





お誕生日おめでとう。
……大好きだよ、敦盛さん。

written 30.05.2005


2日遅れの敦盛BD創作。
あまあまテイスト、神子の視点でお送りいたします。

華やかでも盛大でもないけれど。
日常的な幸せを描きたいな、と思いながら書きました。

一人称は難しい……。



T O P